冨安健洋 アーセナル時代分析 ─ SBのデータが語るCBとしての真価
2026年1月、冨安健洋はアヤックスに移籍し、長期離脱からの復帰を果たした。
アーセナルでの最後の出場は2024年10月まで遡り、実に1年以上ピッチから遠ざかっていたことになる。
アヤックス復帰後は左右のサイドバックとしての途中出場が中心となっており、コンディションの回復を慎重に積み上げている段階だ。
アーセナル時代に目を移しても、起用ポジションは大きく差異はなく、左右のサイドバックを主戦場とし、偽サイドバックとしての役割もこなした。
守備力の高い選手で最終ラインを固めたいアルテタ監督の方針にマッチしていた。
その一方で、筆者は、冨安の本来のポジションはセンターバックであり、SB起用はあくまでチーム事情によるユニット活用の結果だと捉えている。
怪我に見舞われたシーズンが多かった冨安だが、なかでもアーセナルに加入した初年度にあたる21/22シーズンは、限られた出場時間ながらも対PL水準でのデータが揃う数少ないシーズンだ。
本稿ではそのシーズンのデータを軸に、SBとしての数字のなかに滲み出るCB的な守備能力の高さを検証する。
Takehiro Tomiyasu 21/22
冨安健洋 21/22シーズンにおける各指標(1〜5スケール、比較選手でランク正規化)
比較用にピックアップした選手(プレミアリーグ 21/22シーズン)
カイル・ウォーカー(マンチェスター・シティ)
トレント・アレクサンダー=アーノルド(リヴァプール)
リース・ジェームズ(チェルシー)
アーロン・ワン=ビサカ(マンチェスター・ユナイテッド)
エメルソン・ロイヤル(トッテナム・ホットスパー)
ウラジミール・クフォル(ウェストハム・ユナイテッド)
マティ・キャッシュ(アストン・ヴィラ)
CB的守備指標が突出する理由
冨安の守備面で最も目を引くのは、空中戦の圧倒的な勝利数と勝率だ。トランジションの質が高く、直線や対角のロングパスも多用されるプレミアリーグにおいて、相手側のそういったロングパス戦術を無意味にする影響があったと言える。
他にもクリア数や、被ドリブル突破数、タックルやインターセプションなど基本的な守備指標は平均以上であり、守備観点では、対象シーズンにおいて上位チームの主力であった他7人※と比較しても遜色ないスタッツであった。
※ウォーカーやジェームズ、ワン=ビサカといった選手が対人守備において強烈な強さを示す存在であったのは周知の事実だろう。
もちろん、ストライカータイプと対峙するCBに対して、SBはウインガータイプと対峙するため空中戦は優位となるが、スピードに秀でた選手に対して地上戦守備で全く見劣りしなかったのは、十分CBとしても通用する証拠であると捉えている。
Takehiro Tomiyasu 21/22
冨安 vs ウォーカー・アレクサンダー=アーノルド・リース・ジェームズ 21/22シーズン
攻撃面 ── クロス精度という意外な強み
攻撃的な数値に目を向けると、アシスト数や決定機創出頻度は比較グループ内で控えめな水準にとどまる。
これは、前述の通り、アルテタ監督が片方または両方のSBに、より守備的な貢献を求めている戦術的な影響も大きかったと考えられる。
ただ、意外にも際立って高かったのがクロス精度で、T.A.A(アーノルド)よりも高い水準であった。
冨安はポゼッションロスも少なく、これらのスタッツは、より確度の高いシーンでクロスを上げて、不用意なボールの失い方をしないパス選択をしていたことの裏付けとなっている。
また、試合を観ているとわかるが、冨安は左右どちらの足でも精度の高いパスを出すことができる。この辺りの安定感や器用さも冨安の特徴の一つだ。
まとめ ── SBのデータが示すCBの本質
冨安健洋は、長期離脱という制約を抱えながらも、SBとしてプレミアリーグのトップレベルで十分に通用するパフォーマンスを示した。
空中戦勝利を筆頭に、クリアや被ドリブル突破、タックルやインターセプションなど総合的な守備指標の高さは、SBとしての役割を超えた数字であり、冨安がCBとして本来持つ守備能力がそのままSBのプレーにも反映されていると解釈できる。
今後、もしまた欧州の舞台でCBとして定着すれば、対峙する相手はウインガータイプからストライカータイプへと変わり、求められる守備対応も異なってくる。
だが、イタリア時代から代表戦を含めてCBとSBの両方を高いレベルでこなしてきた冨安の適応力を考えれば、その橋渡りにさほどの懸念はないだろう。
アヤックスでの復帰を足がかりに、再びCBとして自身のポテンシャルを最大限発揮する日を心待ちにしたい。